歴史的建造物と現代アートの対話
2023年8月26日
先日,台北当代芸術館へ行ってきました。
この美術館は,1919年の日本統治時代に建築された旧小学校の歴史的な建造物を再利用しており,赤レンガの外壁やアーチ型の回廊,コリント式の柱頭など,ヨーロッパの建築様式が随所に見られます。2001年に美術館として開館し,現在は現代美術に特化しており,台湾のアーティストはもとより,世界各国のアーティストの作品を展示しています。
私が訪れた際には“signalZ”という展覧会が開催されていました。この展覧会は,デジタルメディアやテクノロジーを駆使した現代アートの作品を集成したもので,台湾の若手アーティストや国際的なアーティストの作品が約30点展示されていました。テーマは,“信号”と“雑音”で,人間と機械,自然と人工,個人と社会など,様々な対立や矛盾を象徴していました。
展覧会の中で印象深かった作品は,台湾のメディアアーティスト洪梓倪氏の《極度擴展》という,アルミニウム,アクリル,電子部品などを使ったインスタレーションです。この作品は,2022年に国立文化芸術基金会の助成を受けたプロジェクトの一部として制作されました。ARアプリでインスタレーションの光の屈折を読み取ると,音が奏でられます。光の屈折を音に変換することで,“側翼効果”や立体音響との関係を探求しています。
現実とデジタルの境界が曖昧になっている現代において,この作品は視覚,空間,聴覚の感覚を再定義しようとする試みであると言えます。光と音の関係を通して,映像表現の可能性が拡張していることが伝わってきます。光の屈折は視覚的に鮮やかで,音響的には奇抜な効果をもたらしています。
また,映画史で重要な役割を果たした“側翼効果”や立体音響という技術にも言及しており,映像芸術学の視点からも興味深いものです。
さらに,ARというデジタル技術を使って,現実の空間に介入することで,観る者の感覚を刺激しています。現実とデジタルの境界を曖昧にすることで,新しい芸術体験を提供していました。
今回の展覧会は現代アートの多彩さや魅力を感じさせるものでした。建物の歴史的及び芸術的価値と展覧会の内容との対照も興味深いものでした。
三村(晃)