伝統的工芸の器型から成る近未来的世界観
2023年5月27日
金沢21世紀美術館 シアター21で開催されている“虚影蜃光 ー Shell of Phantom Light”へ行ってきました。
大好きな工藝美術家 池田晃将さんの展覧会です。
ファンになるきっかけとなったのは,彼が金沢美術工芸大学在学中に発表した「Neoplasia」シリーズに出会ったことでした。医学用語の「腫瘍」,「異常増殖」として知られている「Neoplasia」は,元々ギリシャ語において「新生物」を意味する言葉であり,病理学研究室出身の私にとっては大変馴染み深く感じる単語であり,また,作家の名前に自身と同じ漢字が含まれていたことも(勝手ながら)親しみを感じる要因になっていたのかもしれません。
彼は螺鈿技法を用いて,データや電気信号といった実体のないものや想像上の動物を描写する作品も発表しています。雨のように降り落ちる数字,角度によって動きを見せる電子回路のような模様。玉虫色の貝の光は,今日の人間の生活を根底から支えている,電流とデータを表しています。骨貝のような長い水管溝を持つ巻貝,5対の翅を持つトンボ。表面に施された螺鈿加飾が,偶像の崇高性を虚構の造形にもたらしました。
幼少期から親しんできた漫画,アニメーション,ゲームなどから着想を得た螺鈿の構造色を活かした作品には,ホログラムのような立体感と電気信号が高速で移動するような疾走感があります。自然界を生きる貝のもたらす妖しい輝きと黒の漆のコントラストから生まれる作風を,生物工学的なイメージやデザインワークまで拡張する彼の創造行為は,まるで蜃気楼を吐き出すかの如く,この世に存在しない風景を具現化する貝の妖怪「蜃」のようです。
今回の展覧会は,初期の巻「Neoplasia」シリーズから後の「電光」シリーズまでの作品に通底する作家の想像力の源を辿るもので,会場には,生物,鉱物標本と玩具や書籍など,本人の所蔵品と作品が一堂に展示され,ファンとして,理系出身者として,とても唆られる展示構成になっていました。
彼による博物誌を目の当たりにすることで,その奇想天外な造形の系譜を(失礼ながらも)直感的に体験することが出来,また,微小の器型で精妙な世界観を表現するために彼が導入した新技術にも圧倒されました。(伝統的な漆技法を伝承しながら,素地の制作に切削機,螺鈿チップの切り出し作業にパルスレーザーを用いているそうです!!)
三村 (晃)