瞬発的な感覚の向こう側を探る異質な展示
2023年5月8日
アーティゾン美術館で行われている❝第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展日本館展示帰国展ダムタイプ|2022: remap❞へ行ってきました。
展覧会の名称通り,1895年から120年以上の歴史を持つ,第59回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の日本館展示に選出された,ダムタイプの展覧会です。
彼らは日本のアート・コレクティブの先駆け的な存在であり,私の最も好きなアーティストのうちの一つです。
1984年の結成時から一貫して,身体とテクノロジーの関係を独自な方法で舞台作品やインスタレーションに織り込んできた彼らは,坂本龍一を新たなメンバーに迎え,ヴェネチアで新作《2022》を発表しました。
「ポスト・トゥルース」時代,即ち,「客観的な真実」よりも「主観的あるいは叙情的な意見」が集団的な影響力を持ちやすくなった現代におけるコミュニケーションの方法や世界を知覚する方法について思考を促すこの作品を,国内で見ることが出来るということで,非常に楽しみにしていました。
COVID-19のパンデミックを経験し,ソーシャルメディアが一般化した今,現在ほど科学技術が進歩していない時代の人々の「世界の把握の仕方」を通して,どのようなことが考えられるのでしょうか。
会場には,日本館を模した正方形(でありながらアシンメトリー)の空間が出現し,下記の①回転鏡システム,②レーザー装置,③平行光LED,④回転式超指向性スピーカーにより忠実に,空間と音が囲う「日本館」が再現されていました。
①回転鏡システムは,回転する鏡のエンコーダーからの信号(2,048 CPR)と同期して明減するレーザー光線(②)を鏡に反射させることにより,周囲の壁面に投影して6,144ドットの明暗のグラデーションに展開するシステムです。
②レーザー装置は,5本のレーザー光線を122,800Hzで明滅させて,回転する 鏡(①)に反射させることによって文字や信号を壁に投影する装置です。
③平行光LEDは,平行光線になるように調整されたLEDライトで,1秒間に122,800回明滅し,回転する鏡(①)によって光の帯を壁に投影します。
④回転式超指向性スピーカー(1rpm-10 rpm)は,回転する超指向性スピーカーによって,限定された狭いエリアとその方向だけに音が聞こえるようにコントロールされています。これらは1850年代のアメリカの地理の教科書から引用されたシンプルな問いを只管に投げかけていました。
また,展示室の中央には日本館の中央上下にあった開口部の代わりに,上下で向き合うLEDヴィデオパネルが設置されており,床面にはミラーが置いてありました。
ヴィデオパネルを光の装置としてとらえ,差し込む外光を再現できないかという構想で設置され,ヴィデオパネルは全体としてひとつの像を結ぶときもあれば,夜空の星々のように光の粒が際立つときもあり,ときには両者がレイヤー状に重なる,大変不思議なものでした。奥行きを感じる視覚体験や床のミラーへの映り込みが,1フロアのみの展示室に縦の広がりをもたらしており,ダムタイプの発想力·技術力に圧倒されました。
ミニマルな作品でありながら,そこから溢れる余剰の部分に面白みや心地良さがあり,感情と客観の狭間から「人間」を見る貴重な経験になりました。
三村(晃)