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2024年12月13日
先日,大阪中之島美術館で開催されていた「塩田千春 つながる私(アイ)」展へ行ってきました。
彼女の故郷である大阪で,16年ぶりに開催された壮大な個展で,全世界的な感染症の蔓延を経験した我々が否応なしに意識せざるを得なかった他者との「つながり」に,3つの【アイ】-「私/I」,「目/EYE」,「愛/ai」を通じてアプローチしようという試みです。それぞれの要素は多様に相互作用しながら,我々と周縁の存在を結びつけていると考えられます。
現在ベルリンを拠点に国際的に活躍する彼女は,「生と死」という人間の根源的な命題に対峙し,作品を通じて「生きることとは何か」,「存在とは何か」を問い続けています。
2019年に森美術館の個展で邂逅した瞬間から,私は彼女の作品に心酔しました。しかし,日本での彼女の展覧会は極めて少なく,今回は久方ぶりの大規模な個展ということで,1年前から心待ちにしていました。
展覧会の入口を抜けると,「巡る記憶」というインスタレーション作品が目に飛び込んできます。
無数の白い糸が空間全体に張り巡らされ,その糸から水が水盤に滴り落ちる作品で,水盤に落ちる水滴は波紋を広げながら水面を揺らし,その循環が繰り返されます。この光景は,まるで脳の神経細胞ニューロンのように,複雑で繊細なつながりを感じさせます。糸から滴る水は,丸い波紋を描きながら水面に影響を与え続けます。この様子は,涙が流れ,大地に吸い込まれる水や,肩を濡らす冷たい雨を思い起こさせます。これらの水の動きは,私たちが生きていることを確かに感じさせる存在として,常に私たちの意識に働きかけます。また,室内を覆う白い糸は,水が地熱によって白い蒸気となって立ち上る様子を連想させます。水は生命の源であり,循環するエネルギーを象徴しています。この作品では,水が人と人とのつながりを表現しており,ここにはいない人々の記憶が糸によってつながれ,私たちの目の前に「不在の中の存在」として示されています。
この展覧会で私の魂を最も深く揺さぶったのは,「つながる輪」という作品でした。
これは,人と人との絆をテーマにしたインスタレーションであり,一般公募で集められた1500通以上の手紙が使用されています。それぞれの手紙には,「つながり」に対する多様な人々の思いが込められており,その一つ一つが心に響きました。彼女は,「この社会に生きている限り,人はどこかで何かとつながっている」という信念のもと,この作品を制作しました。つながりがなければ社会に存在できないという考えから,肉眼では見えないつながりを作品を通じて表現したいと考えました。糸が絡まったり,結びついたり,切れたり,張り詰めたりする様子は,人間関係の変容を象徴しています。パンデミックにより私たちは人と距離を取る生活を余儀なくされましたが,それによって多くの人とつながっていたことに気付かされました。この経験を経て,彼女は「つながり」をテーマに広くテキストメッセージを募集し,赤いロープの中で渦巻くように円環を描くそれらの言葉は,さまざまな人の人生を垣間見るようであり,また,他者との繋がりが言語や思考の共有によって広がることを示唆しており,私たちが如何にして他者と共鳴し合うかを考えさせられました。
彼女の作品は,視覚的な美しさだけでなく,深い哲学的な問いかけを含んでいます。彼女の作品を通じて,私は自己と他者,内的宇宙と外的宇宙の繋がりを再認識し,存在の意味を問い直すことができました。彼女の作品が今後も多くの人々の魂を震わせ,深遠なる感動を与え続けることを切に願っております。彼女の卓越した創造力と燃え盛る情熱が,さらなる高みへと昇華されることを心より応援致します。
三村(晃)