微型世界裡無限的故事展開
2024年5月4日
先日,袖珍博物館を訪れました。
この博物館は1997年に林文仁夫妻によって設立され,ミニチュアアートをテーマにした博物館として,世界で第2位,アジアでは最大級の規模を誇ります。展示には日本語のキャプションも添えられていました。
館内には精巧に作られたドールハウスやその小物たちが所狭しと並んでいます。世界各地から集められたこれらのミニチュアは,アジアでは非常に珍しいもので,日本でもなかなかお目にかかれない逸品が揃っています。ドールハウスファンでなくとも,一見の価値があります。その精巧な作りに目を奪われました。
ミニチュアアートは16世紀に始まったと言われ,建物全体や部屋の内装を主に12分の1に縮尺した作品です。イギリスで作られたドールハウスが1フィート=1インチに縮小した1/12サイズだったことが始まりとされています。家具の材質,ガラス,布,ボトルの中のワインなど,すべて本物と同素材で作られているのが特徴です。特に「アンティークミニチュア」と呼ばれるものは,縮尺や材質がバラバラであることもありますが,それもまた魅力の一つです。
まず最初に目に飛び込んでくるのは,この博物館の目玉の一つである「ローズマンション」です。
19世紀の終わりから20世紀の初めにかけて,現在のロサンゼルス市中心部はまだバンカーヒルと呼ばれる丘陵地でした。そこには高級住宅が立ち並び,その中でもローズマンションは特に際立った存在でした。しかし,都市の発展がバンカーヒルに及び,丘陵は削り取られ,高層ビルが代わりに立ち並ぶようになりました。ローズマンションも1930年頃に姿を消しました。
この消失を大変惜しんだのが,当時ユタ大学で建築史を研究していたTwigg博士でした。博士は図書館で古い雑誌の記事を入念に調べ,室内に使われていた材料も当時のままに,五年近くの歳月をかけてローズマンションをミニチュアの形で復元しました。ローズマンションはローズ氏の所有であり,その建築様式はビクトリア風でした。
後ろに回ると,10を超える部屋それぞれで繰り広げられるドラマが目に飛び込んできます。ドールハウスの中の主人公たちの暮らしぶりは見ていてとても楽しく,時が経つのも忘れてしまいます。
「ローズマンション」を先頭に,入り口から奥へと通路中央に置かれているのが「ドールハウス」と呼ばれるもの。そして,その両脇に並ぶ小さなサイズのお部屋たちが「ルームボックス」と呼ばれるものです。ドールハウスは家全体を形作ったもので,ルームボックスは家の一部,部屋単位で作られたものだそうです。小さなおうちやお部屋の模型の総称がドールハウスかと思っていましたが,厳密には呼び名が違うことを学びました。
特に際立っていたのは,バッキンガム宮殿やベルサイユ宮殿のミニチュアです。
これらの作品は,建物の外観だけでなく,内部の装飾や家具まで忠実に再現されており,細部に至るまで緻密に再現された作品の数々は,まるで現実世界から切り取られたかのような錯覚を覚えます。それは単なる模型ではなく,歴史や文化を凝縮した芸術品であり,その精巧さに心を深く揺さぶられました。
袖珍博物館のコレクションは,世界各地の文化が凝縮された珠玉の宝庫です。ローマ帝国の遺跡を再現した作品は歴史のロマンを感じさせ,現代的な都市風景を描いた作品は私たちの生活との繋がりを意識させます。各作品は,作者の繊細な手仕事によって紡ぎ出された独自の物語を秘めており,その小さな作品に宿る壮大な物語に,感嘆せずにはいられませんでした。
三村(晃)